スペインのマンガなんて初めて読みました。
パコ・ロカの『皺』。
この絵からはパコ・ロカのデビューがポルノコミックス専門誌というのがちょっと信じられません。
マンガのタイトルに「しわ」。
しかもテーマが「老い」。
これもちょっとありえません。
老いをマンガにするなんてさすがヨーロッパ、と思っていたら、パコ曰く「欧米諸国では『老い』について語るのはタブーという面がありますよね」ということで、どこも同じです。
パコ自身、「こんな退屈なテーマのマンガなど誰も読まないだろう」と描き上げた時は思ったそうですが、出版されると予想に反してフランス、イタリアで人気が出てスペインでも評価されました。
スペインではイグナシオ・フェレラス監督で長編アニメ『しわ』が制作され、DVDも出ています。
販売元はディズニー。
実は有名な作品なのかもしれませんが、今まで知らなかったデス…。
老人ホームで元銀行の支店長だったエミリオの認知症が進んで、ということで話が進みますが、染み入る怖さが漂います。
描き文字があるわけでもなく、絵も淡々としていて、別に珍しいエピソードがあるわけでもないのですが、怖い。
この老人ホームには二階があります。一階は身のまわりのことは自分でできる人たち、二階は自分で自分のことができない人たちがいます。この施設の世話役のような老人、ミゲルは言います。
「二階は見ない方がいい。落ち込むからね」
その階段はただの階段なのですが、ここを上がっていったらどうなるのか。
エミリオは、自分は時間が経てば上の階に行かなければならないことを知っていて、上の階を見たいと言います。しかし見た後はショックでこう言います。
「もうここを出よう。ミゲル、私はあんなところへは行かないよ。そのためにはなんだってする」
でもエミリオはやっぱり二階で暮らすことになります。
だからといって何か起こるわけではなく、二階で暮らすことになるだけです。
ただ、その淡々ぶりがものすごく尾を引きます。
時々ミゲルはエミリオの食事につきあいますが、ミゲルがのっぺらぼうになってしまっていることでエミリオはミゲルのこともわからなくなったことが表されています。
ミゲルの顔がかすかに笑顔にみえることが私にとっては小さな救いです。
私に同じことが起こるかもしれなくて、他人事じゃなくなった時にどうしたらいいんだろう。読んだ後にシクシクいつまでも引きずるような気持ちになります。
同時収載の『灯台』も心を落ち着かなくさせます。
ので、『皺』は体調のいい時に読んだ方がいいかもしれません。
<参照>
■パコ・ロカ、『皺』、小学館集英社プロダクション