【泉田前新潟県知事講演会】災害対応は「自分のこと」として考えないと魂が入らない。知っているリスクを黙っていてはいけない。

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2017年6月25日、神戸で前新潟県知事、泉田裕彦さんの講演会が開催されました。結構広い会場でしたがほぼ埋まっており、20代、30代の方も多く見られました。

開演を待っていたら、泉田さんが主催者の方と会場に入られて、私の隣に座られました。

ここ、関係者席ちゃうんかΣ( ̄ロ ̄lll)

「私、移動した方がいいですよね」とよりによって泉田さんに聞いてしまった私に、泉田さんはサラッと「大丈夫ですよー」。

なので、ズーズーしくい続けたのですが、次々にあいさつに来られる方々に泉田さんは丁寧に接しておられて、「お母さまには大変お世話になって」という女性には「(母に)電話かけてみましょうか、喜びますから」とフットワーク超軽で、控えめに言ってもとてもすてきな方でした。

私も少しお話しさせていただきましたが、講演の中でも何度も言われていましたが、この時「伝わらないんですよね」と言われていて、「今日の講演の内容は私が伝えます」と言ってしまったので、以下、講演内容です。

もともと、書くつもりで準備はしていましたが、こんなにフルでやることになるとは思っていませんでした。でも、指摘されていることがあまりにも「そら、そやろ」なことで、それが何の対処もされずに放っておかれていることに「それはあかんやろ…」というのがジワジワきます。原発と隣り合わせで暮らしている私たちにとって避けて通れない話だと思います。


ちなみに、講演中で話されている佐藤栄佐久前福島県知事の贈収賄に関する映画、『「知事抹殺」の真実』
が2017年8月26日から9月1日まで元町映画館で上映予定です。


この日は録音・撮影が禁止だったので書き起こしではありません。私のメモと配布資料から作成しています。

話し言葉を書き言葉に変えていますので、講演者の言い回しと違うところがあります。
話がダブるところ、講演中に同じ話を別の所でされているところは、適宜まとめています。

そんなことがあったよね。
ということもあれば、
そんなことがあったんかΣ( ̄ロ ̄lll)
なこともあると思います。
めっちゃ長いですが、ここまで読んでくださったのなら、最後まで読んでほしい*´∀`)ノ

「中越地震・中越沖地震と原子力防災の課題」
前新潟県知事 泉田裕彦さん
2017年6月25日

<目次>
■はじめに
■国の防災担当者が次々と変わるのでノウハウが蓄積されない
■災害時は横で支援する仕組みが必要
■余震がくると怖くて家の中にいられないから屋内退避は現実的ではない
■大きな地震の際には広域で通行止めになり、通信が遮断される
■柏崎刈羽原発火災事故
■福島の教訓は「原発の冷却に失敗すると大惨事になる」ということ
■現在の法体系は複合災害に対応していない
■新潟の避難支援活動
■災害対応における制度の不備
■福島第一原発事故後の規制の不整合
■メルトダウンを隠し、謝罪の場でも嘘をつく東電とそれを追求しないマスコミ
■原因を徹底的に追及する米国と問題にフタをする日本
■事故で明らかになった課題①:重要事項の意思決定
■事故で明らかになった課題②:過酷事故をだれが収めに行くのか
■事故で明らかになった課題③:テロ対策B.5.bが共有されていない
■まずいと思ったことは言わないといけない
<質疑応答>
Q:避難計画の実効性の審査はどうあるべきですか。
Q:東電の経済的効果は固定資産税や雇用などどんなものですか。立地県として原発のメリットとデメリットをどう判断して政策を行ってきましたか。
Q:原子力防災について県議会との関係はどうですか。
Q:知事選出馬は圧力でやめさせられたのですか。
Q:・・・といっても国やいろいろな圧力があるのではないですか。
Q:米山新知事のもと、新潟として今はどういう取り組みをしていますか。
Q:本の出版で現実を訴える予定はありますか。
Q:福島からの避難者のスクリーニングは任意とのことでしたが、兵庫は必須でした。尼崎の稲村市長は「強制していいの?」と言っていましたが、そのあたりを聞きたいです。
Q:311後、福島からの避難者を受け入れる時にスクリーニングレベルを引き上げましたか。また、スクリーニングチェックで引っかかった事例は何件ありましたか。
Q:311で福島に行った職員のその後について教えてください。
Q:行政は再稼働についてどこまで影響を与えることができますか。特に県知事がどこまでできるのですか。
Q:子孫に国を残すために国民は今、何をすべきだと思いますか。

■はじめに
今日は、実際に私が体験したことと現在抱えている制度の課題と矛盾について話したいと思います。

兵庫県の皆さんには感謝しています。私が知事に就任する30時間前に中越地震が起こりました。前任者が金曜日に退任され、私は月曜日の0時に就任予定でしたので、この土日に何もなければいいなと思っていましたが、土曜日の5時56分に地震が起きました。このときは新幹線が脱線し、集落が水没しました。住民避難に加えて牛のヘリ輸送をして、動物救護もしました。後に中越地震がモデルになって動物救護センターができるのがあたりまえになりました。経済家畜は殺した方がコスト的には安いのですが、一緒に住んでいる動物を見捨てていくと復興ができません。

兵庫県庁からは阪神淡路大震災を経験した支援チームを送っていただき、知事室の隣の部屋に入ってもらいました。アドバイスを受けながら青葉マークの私が地震に対処することができました。12年間、仕事ができたのは、ボランティアチームを含めたたくさんの方々のおかげです。今度は私が経験した部分を原子力災害も含めて伝えていかないといけないと思っています。

国の防災担当者が次々と変わるのでノウハウが蓄積されない
新潟県は面積が広いから災害が多いです。東京都の某区長と話をした時に「防災と言われても区の面積はとても小さいので防災にあたらない」と言われていました。2004年に中越地震(M6.8)、約3年後に中越沖地震(M6.8)が起き、30キロ圏内で2度地震が起きました。中越沖地震の時、柏崎刈羽原子力発電所が火災事故を起こしています。こんな近くで二度も地震があるなんて市町村は大変だと思われるかもしれませんが、主に被害を受けた市町村は違います。中越地震では長岡市などが被害を受け、中越沖地震では柏崎市、刈羽村などが被害を受けました。だから県は二度経験しましたが、市町村の職員は1回ずつしか経験していないのです。

ということは、面積が広いと災害対応が増えるはずで、そう言う意味では国が一番災害を経験しているはずです。ところが、危機管理監は各省からの出向なので1~2年で人が変わります。東日本大震災から現在において政権交代が起きたので「こんな対応をとらなければいけない」ということがゼロリセットになっています。防災関係者はわかっているのに国の人が変わってしまうので、また一からやる感じになります。

私は知事会の危機管理防災特別委員長をしていました。危機管理について、災害にあったことのある知事は「大変だ」と考えてくれますが、災害にあっていない知事は関心がなく、委員会にも出てきません。いざという時に住民の命、安全、財産、健康をどう守るのかが伝わっていかないというのが現実です。

米国ではFEMAという防災の専門家が国全体をコントロールする仕組みがあります。日本は都道府県でノウハウがたまります。兵庫県庁の方から聞きましたが、兵庫県は背中にまる防マークがついています。防災担当者はずっと担当し、最後は副知事になるルートを持っています。就任当初にその話を聞きましたので、新潟県は防災担当者を10年くらい動かしていません。そうするといざという時のノウハウがたまります。兵庫は被災地にいつも人を送っておられますが、それはノウハウがあるからできるのであって、素人は役に立たないのです。阪神淡路の経験を持った方々から教えていただきながら対応できたのは本当にありがたかったです。

■災害時は横で支援する仕組みが必要
新潟県もそういう職員を養成したので、いろいろなところでお手伝いができます。熊本の地震の時は、新潟県からの出向者が現場を仕切りました。東と西に災害対応ができる職員がいるかどうかというのは大きく違います。

行政で防災という分野はものすごく重要ですが、めったに起きないので対応できる人は少ないです。ましてや原子力になるともっと少ないのです。いざという時に国から職員が派遣されてもなかなか機能しません。同様に県から職員を市町村に派遣しても役に立ちません。なぜなら国は都道府県の業務がわからないし、県は市町村の業務がわからないからです。だから横で支援する仕組みを持っておかないといけないのです。このお願いを国にずっとしていました。民主党政権は東日本大震災を経験しているので、当時の平野防災大臣は防災基本法を2回改正しました。3回目に原子力災害との複合災害とトップがサポートできる仕組みに変えると言われていたのですが、総理以下閣僚が全員出席する中央防災会議の議事録はあるはずなのに、政権交代で引き継がれませんでした。

避難者の対応はきちんとやらないとすごく長引きます。コミュニティをどうするのか。高齢者や障害者が先に仮設に入ったらコミュニティが壊れます。兵庫ではふるさとを離れて帰ってこない例もあると聞きましたので、中越地震の時はコミュニティごとに仮設住宅を作りました。避難所も番地をつけて、体育館でもどこの集落かわかるようにしました。

余談ですが、しばらくすると新潟県の職員がグレ始めました。なぜかというと、都道府県は同格なのに私が青葉マークだから兵庫の人がアドバイスをするとそれが実施されるので、「何で兵庫の傘下に入るんだ?」という感情が出てきたようです。10日ぐらいして兵庫チームから「兵庫は体制を縮小します」と言われて、私は「もっといてください」と驚きましたが、法律に位置づけられてサポートするものがないとこういうことが起こります。私は災害をたくさん経験したので、災害が起こると「泉田さん、仕切ってください」と言われますが、現職の知事が他県を仕切るとそこの知事の立場がありません。「先方の知事が了解したら行きます」と言いますが、仕切られたら困るから了解しません。

選挙との関係もあります。普段の行政も影響はありますが、災害時には10倍くらいの見え方をします。一生懸命やったかやらなかったかで首長の評価ははっきりわかれます。地震のあとに立候補できなかった首長もいますし、国会議員になった首長もいます。住民と向き合えたかどうかで評価ががらっと変わる、それだけ住民の生命、安全、財産に影響を及ぼすことです。

中越地震の時は余震が続きました。男の子が救助されましたが、話すと長くなりますが、行方不明の車が見つかりませんでした。土曜の夕方5時56分に地震があり、6時10分過ぎに消防通報から車が3台のまれたと認識していました。9時前、大型トラック、軽トラック、赤い乗用車が見つかり、救助は全部終わったと警察から言われました。「行方不明者がいる」と2日後に捜索願があり「探してほしい」と言いましたが「見つからない」と言われました。NTTの通信記録を見ると3時間たたないうちに見つかりました。ナンバープレートしか見えませんが中にいるはずです。でもプロからしたら「もう亡くなっているだろう」という判断で、余震でいつ落ちてくるかわからないので「(知事の責任で)撤退命令を出せ」と言われました。でも1パーセントでも可能性があるのなら、努力しなければと思いました。土木の専門家とともに崩れないか判断しながらハイパーレスキュー隊も入って救助活動をしていただきました。あの時もし撤退していたら遺体となって発見されていたでしょう。命をいかに守るか、責任を肩にずっしりと感じました。

中越地震の時、人と防災未来センターからも支援をいただきました。そして、当時京大の河田先生にお願いして学者の方に新潟大学の復興科学センターにきていただきました。「阪神で都市直下型の地震がきたらどうなるかがわかり、中山間地型の地震が来たら何をしないといけないかがわかる人、両方わかってはじめてセンター長になる人材を派遣してほしい」とお願いしたら、快く引き受けてくださいました。東日本大震災の時は新潟大学から京大につながるルートの先生がすぐに駆けつけて支援活動をしました。

余震がくると怖くて中にいられないから屋内退避は現実的ではない
新潟の地震は震度6強の地震が3回来ました。熊本はたまたま余震が最初より強かったので本震が後に来る初めての経験だと言われましたが、地震は1回では終わりません。余震が必ずきます。その結果何が起きたかというと、熊本の場合は川内原発と関係があったかわかりませんが、「屋内に避難してください」という呼びかけが結構あったと聞いています。そのあとに本震が来たので、屋内に退避した人が本震で亡くなるケースがあったと聞いています。

第1回の災害対策本部はオブザーバーで出て、そのあとすぐに現場に行きました。トップはすぐ行けばいいというものではないのですが。トップではなかったから行ったということもありますが、そうしたら、新潟にこんなに人がいるのかと思うくらい人がいました。普段も人はいるのですが家の中にいます。しょっちゅう余震が来るのでつぶれるかもと思うと怖くて家の中にいられないのです。壁は崩れ、窓は割れています。原発事故と同時に起こったら、壁や窓がなかったら(屋内待避には)何の意味もありません。でも、今の規制基準は屋内退避することになっていて、「逃げないでください」と求められています。本震の後には必ず余震がくると思ってほしいのです。そのときは怖くて家の中にはいられないというのが当たり前です。避難所も余震がくると怖くて中にいられなくて一斉に飛び出します。「耐震設計していますから大丈夫です」と言っても、余震では中にいられないのが現実です。

だから原子力規制委員会は屋内退避をもう一回考えなおすべきだとずっと言っているのですが、原子力規制委員会は原子力の規制をする人たちなので、自然災害に対応する人が一人もいないまま考えてもらえずに今日まできています。要配慮者への対応などは変えてもらいましたが、原子力だけは触らぬ神に祟りなしでなかなかやってもらえません。

大きな地震の際には広域で通行止めになり、通信が遮断される
大きな災害が起きたとき道路は通行止めになり、渋滞で動けないというのは重要な話です。中越沖地震の時は緊急自動車がサイトに到着するのに2時間強かかりました。自衛消防隊も機能せず、広域で通行止めになり、高速道路も使えませんでした。段差があるところを轍の所だけ穴埋め作業をして緊急車両だけ通行できるようになりましたが、この作業をする人がいたからできたのです。もしこれが屋内退避指示だったら、誰が外で被ばくしながら作業するのかという問題があります。

また、防災対策で携帯の電波を出す鉄塔にはバッテリーが入っているので3時間は電波が届きますが、斜面崩壊が起きて道路が一緒に落ちると光ファイバーが切れるので通信できなくなります。基幹線が切れると通信は全部途切れます。中越沖地震の時、サイトから炎が上がって煙が出ているという話は地元の人ほど知りませんでした。停電でテレビがつかないので被災地ほど情報が届きません。外から教えられてわかる状態です。南相馬市の桜井市長は「気がついたら誰もいなくなっていた。地元紙と私しかいませんでした」と言っていました。原子力安全保安院は引き上げています。立地自治体ではないのでサイトとの連絡手段がなく情報が入らない。物資もなくなります。「うちの中にいろと言われるが、水も食料もないのにどうやってこもれというんだという大変な状況に追い込まれた」と言われていました。

柏崎刈羽原発火災事故

中越沖地震の時に柏崎刈羽原発で火災事故がおき、原発が火事なのに誰も人がいない映像が世界に向けて配信されてしまいました。世界の常識では、原発が火事なのにだれも人がいないということは放射能が漏れていることを意味します。この時は原子炉からではありませんがコバルト60が微量出ていたことがわかって大問題になりました。

基本的に放射能漏れを起こしていないのに、なぜ人がいなくなったのか。サイト内には最大150センチの段差があり、消防車はサイトになく、消火栓パイプは破断して水が出ません。何もできないので現場から退避する、それで放射能漏れが起きていないのに誰もいない火災事故が起きてしまい、世界に風評被害が行ってしまいました。新潟県庁には通訳を兼ねた交流員がいますが、外国の実家から電話がかかってきて「すぐに帰ってこい」と言われていました。放射能が出ていないのに出ていると伝わった「真の」風評被害だと思っています。

福島の教訓は「原発の冷却に失敗すると大惨事になる」ということ
議論はありますが、福島の事故は地震が引き金になりました。どうしてこんな大事故になったのか。福島の教訓は何だろうという本質の所を言うと、原発の安全を確保するのに3つしなければいけないことがあるのに欠けてしまったということです。

「止める」「冷やす」「閉じ込める」で放射性物質を出さないことが原発から環境を守る基本です。福島のとき、「止める」のは成功していますが、「冷やす」に失敗しました。だから「閉じ込める」にも失敗して大惨事になりました。これが福島の本質です。冷却材喪失事故といいます。冷却できなくなるとものすごい熱に容器が耐えられなくなります。津波や地震だけに矮小化するとまた想定外が起きます。「冷やすことに失敗すると事故になる」これが福島の教訓だということを覚えていてほしいです。新潟にも柏崎刈羽原発があります。原発は止まっていても動いていてもリスクがあるのは変わりません。放射線と放射性物質を人間界からいかに隔絶するか、「止める」「冷やす」「閉じ込める」これが基本です。

外部被ばくと内部被ばくは意味が違います。外部被ばくは外からくる放射線だけですが、内部被ばくは細胞を直接攻撃するので危険です。わかりやすく言うと、石炭ストーブは外からあたるとあたたかいですが、これは外部被ばくです。そして中の真っ赤に燃えている石炭を飲み込むのが内部被ばくで、外部被ばくと内部被ばくはまったく違うものです。

放射線にはα線とβ線とγ線があります。γ線は電磁波で害が少ないです。β線は電子の流れで原子核より小さいです。α線は原子核そのものでDNAを傷つけます。「α線は紙一枚で止まる」とよく説明されます。しかし、外から来るのは止められますが、肺、胃、食道に放射性物質がくっついたら同じところを集中的に原子核が攻撃するので細胞は傷つきます。α線は内部被ばくの時は一番危険です。今はγ線しか計っていないので内部被ばくにどう対処するのかよく考えないと健康被害が出ます。放射性物質や放射線から人体を隔離することが安全確保になります。

現在の法体系は複合災害に対応していない
地震と原発事故はかなり近い関係にあります。チェルノブイリ原発事故のように地震とは関係なく事故が起こることはあります。しかし、大きな津波や地震といった自然災害と原発事故が同時に起こった時、今の法律では対応できません。今の法体系は旧通産省(経済産業省と原子力規制委員会)の系列の法律と自然災害が縦割りになっています。原子力防災大臣と普通の防災大臣が二人いて、別々の指揮系統なので現場は苦労しているというのが現実です。

日本の場合、さまざまな法制度上の問題点があることがわかりました。東日本大震災が2時40分に起こり、16時前後に職員が走ってきました。
「冷却するポンプ室が流されました」
「どうやって冷やすの?」
「なんとかするんじゃないでしょうか」

なぜそう答えたのかと後で職員に聞きました。素人の私は「熱を海に逃がすから、そこが壊れたら熱がこもる」と思ったのですが、専門家から見ると「非常用冷却装置とかいろいろあるし、あの時は5、6号機で対応が始まったという情報もあったので何とかするのではないかと思った」とのことでした。

福島の場合は冷却する最後の砦が全部機能しなくなって爆発しました。冷却できないと大変ですが、普通の災害対応、津波や地震にも対応しないといけないので、それは専門家にまかせておいて頭が他に行ってしまいます。

夜に福島からSOSがありました。「停電してモニタリングポストが機能しないので職員と機材を貸してほしい」という依頼でした。「すぐ行け」と言いたいのですが、モニタリングポストが壊れたところに職員に行けというのは被ばくしろというのと一緒です。だからSOSが来た時に一瞬悩みました。日本には危ないところに行って障害を負ったら特別手当が出るとか、家族も含めて面倒を見るという制度がありません。チェルノブイリの時はソ連軍が対応しました。健康被害があれば国が面倒を見るし、万一の時は家族の分も国が面倒を見ます。独ソ戦と同じ対応をすると決めて軍を投入しました。日本にはそういう制度がないのです。特別手当もないし、被ばくで影響が出ても個人責任と言われかねない。でも福島県を見捨てられない。

組織には「決して指名をするな」と言いました。内部被ばくと外部被ばくの違いがわかる人、放射線防護を自分でできる人、水と食料を新潟から持って行くこと、短期で交代することを条件に「行ってもいい」という人がいたら事後的に出張命令を出すが、決して強制するなということで希望者を募りました。神風を送り出す指揮官の心境でした。どれだけ線量が高いかわからないところに職員を送る心境はそういうことです。高線量下で作業を行うのはサイトの社員だけではありません。保健所職員、ドライバー、建設作業員など皆自分のことになってきます。雇い主や市町村長は何の制度もないまま従業員や職員を危険にさらす判断を迫られるのが今の現状です。

チェルノブイリの時、プリピャチから42000人が避難するためにバスが1200台必要でした。2回行けと言えないので運転手は1200人動員されました。新潟県の場合、国が屋内退避という30キロ圏内に44万人がいます。避難だけでバスが1万数千台必要です。そんなにたくさん運転手はいません。バス1万数千台をどうするかは自治体に丸投げされます。避難する時にはバスだけではなく福祉車両も必要で、要援護者の数だけそろえないといけません。

しかも地震と一緒に起きたら道路は通れません。屋内退避指示が出ると、使用者に従業員の安全を守る義務がかかってきますから、私と同じ立場になる人が出てきます。社員が特別な制度はなくても行ってもいいと言っても、業務命令として行けと言えますか?中越地震の時は外で作業をする人がいたから12時間でとりあえず緊急車両が高速道路を通れるようになりました。でも、原発事故が一緒に起きて屋内退避指示が出たら誰が外で作業してくれるのでしょうか。

もっと大変なのはヨウ素剤です。今の国の指針は、「安定ヨウ素剤は学校や保健所にためておいて、いざというときに配る」となっています。でも、福島の時は8時間半でベント判断が行われています。ヨウ素剤は4~5時間前に服用しないといけないので、事故が起きて2~3時間で44万人に配らないといけないということになります。屋内退避指示が出ている中で誰が放射能を浴びながら配りにいくのでしょうか。こんな無理なことを要求されてもできません。

国の指針がおかしいと声を大にして言っているのに伝わらないのです。新潟は中越沖地震の柏崎刈羽原発事故を経験しているから、何が起きるかみんなイメージがわきます。緊急車両がサイトに行くのに2時間かかる大渋滞の中で、どうやってヨウ素剤を44万人に配るのでしょうか。雪の中かもしれないし、夜中かもしれません。今の指針では無理だと言っているのに書かない。なぜ書かないのか謎です。今の日本が抱えている大きな課題だと思います。

新潟の避難支援活動
南相馬の桜井市長のSOSで物資運搬と避難を手伝いました。でも、バスは30キロ圏内は入ってくれません。トラックは30キロの外のポイントまでしか物資を持っていけません。バスを派遣した時に「行ってもいいけどカナリアもやれ」と言われました。現職員も乗せて行けと言うことです。防護服の着かたを指導し、線量計で確認しながら行きました。

新潟は全国に助けてもらったという気持ちがあるから、いざという時は100万人受け入れる名簿を作っておこうということで、防災グリーンツーリズムを宣言して準備していました。だから市民全員が来てもらっても対応できます。車がある人は車で来てくださいと言いました。東北大震災の時はガソリンがありませんでしたが、新潟には製油所があるので県内のスタンドにきてくれたら給油できます。国道に看板を出し、廃校となった高校にポイントを作って行き先がない人はどこに行ったらいいか案内しました。徹底したのは「スクリーニングは希望者だけ。絶対強制しないように」ということでした。新潟は助けていただいたことがあるから、なにをしてあげたらいいかがわかります。県民の方にも、バックアップをしていただいた全国の方にも感謝しています。

災害対応における制度の不備
新潟県で一番大きい保健所は新潟市にある新潟保健所ですが、新潟市に避難された方のサポートは新発田、長岡、三条の保健所が対応しなければなりませんでした。放射能防護知識を持つ職員がいないからです。新潟県は立地自治体で柏市も刈羽村も立地自治体ですが、新潟市は政令市で立地自治体ではないので放射能防護知識を持つ職員がいません。これは日本の危機管理の穴だと思います。

鳥インフルエンザなどめったに起きないこともすべての市町村が24時間対応して専門家を置いても機能しません。めったに起こらないけれども専門知識が必要なことにおいて、広域自治体の役割は大きいと実感しました。わかったことは直さないといけないのに、国全体で直されていません。国がやらないので、新潟県と新潟市は相互協定を結んで広域災害、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザが発生した時の指揮権を県に一元化しました。一方、市町村で行った方がいいことも整理しました。制度の見直しが必要です。

福島第一原発事故後の規制の不整合
事故後の規制の不整合についても指摘していますが、一度も国から回答がありません。知事会の危機管理防災委員長としてあげた質問に誰も答えられないのです。今、環境規制は原発の中の方が一般環境よりも厳しくなっています。原発内だと放射性廃棄物として扱われるのに、知識のない市町村職員が放射性物質を扱えます。

福島原発事故後、放射性物質をどう扱うかについて、政府内で電力業界が引き取ることが検討されたと聞いていますが、金がかかるから却下されました。原発のオペレーションをしている電力事業者やメーカーは知識を持っていますが、市町村にはありません。「日本は今、緊急事態にあるから仕方がない」「餓死するより若干放射性物質のリスクがあっても食べる方がいい」ということで一般の環境基準をゆるめて安全なのであれば原発の基準もゆるめてほしいと要望しましたが、それはできないのです。なぜなら世界基準では100ベクレルを超えたら30年間、放射性物質としてドラム缶で厳格に管理しないといけないからです。なのに、原発から出て一般環境中にあるものは80倍ゆるくても大丈夫ということになっているのが今の基準です。どうして一般環境中はゆるく扱ってよくて、原発内は厳格にやるのかと尋ねても一度も答えをもらえません。

放射線管理区域と避難解除の基準の問題もあります。歯医者でレントゲンを撮る所のように、年間で5ミリシーベルト被ばくするエリアを日本では放射線管理区域と定義しています。この区域では18歳未満は就労禁止、食事も禁止です。なのに福島では20ミリシーベルト以下なら子育てをしていいことになっています。これが帰還基準です。なぜなのかと聞いても答えはありません。話してはいけないことなのか、話していると圧力がかかってきます。なぜ管理区域は5ミリシーベルトで食事もできないのに、福島では20ミリシーベルトで子育てが可能なのでしょうか。食品安全基準もウクライナよりゆるいのが今の日本の現状です。

メルトダウンを隠し、謝罪の場でも嘘をつく東電とそれを追求しないマスコミ

3月11日に東日本大震災が発生し、12日の朝に発電所正門付近などで燃料ペレットの中にしかない放射性物質が検出されました。

13日に燃料の頂上に水が下がってきたことがわかっています。テレビ会議で「TAF到達から炉心溶融まで4時間くらいと評価」という情報は、東電内で共有されています。

3月14日のテレビ会議で原子力本部長の武藤副社長が「みんなで認識をそろえよう」と「冷やす」に失敗した時間について吉田所長と時間のスリ合わせを行いました。
武藤副社長:「(燃料が)裸になった時間の認識をそろえようよ。18時22分。で、2時間でメルト。2時間でRPV(圧力容器)破損の可能性あり。いいですね」
吉田所長:「はい」

福島の時、テレビ電話がありましたが、柏崎刈羽もテレビ電話のメンバーに入っているので状況は知っていたはずです。東電をしばらく呼ばなかったのは、柏崎刈羽も巻き込まれているから災害対応の時に迷惑になると思い、控えていたからです。3号機が爆発してそろそろ状況を聞かせてほしかったので東電に説明を求めました。メルトダウンしているかどうかが最大の関心事でした。新潟県民に避難が必要なのかを判断しないといけないからです。新潟には中国、韓国、ロシアの総領事がありますが、受け入れると非公式に言われました。

3月18日に東電の職員に来てもらいました。地震発生翌朝に燃料ペレットの中にしかないジルコニウムが外で見つかりました。溶けているに決まっています。東電に「メルトダウンしているでしょう」と確認をとりたかったのに、だるま落としのような図を書いて、「溶けているかもしれませんが、中にはペレットがありまして、こういうふうに残っているから大丈夫です」「被覆管は溶けているけど燃料は溶けていない」と言うのです。嘘でしょう。発電所の前にペレットの中にある物質があるのに、こんな図を書いて立地県の知事に嘘をつくのだと思いました。ここは明らかにしてもらわないと困ります。どうして嘘をつく仕組みが東電の中にあるのかは絶対に検証してもらうつもりでした。5月24日にプレスでメルトダウンを公表していますが、東電は最初から知っていたのです。「知っていたでしょう」ということをずっと追及していました。知っていたことを認めてようやく謝罪したのは5年も経った去年(2016年)です。

私に違う説明をしたのは松本さんです。東電の広報で、柏崎刈羽で事故が起きた時は技術のトップでした。松本さんは多分、上司に「なんてことをするんだ」と怒られたはずです。退任前に東電から謝罪されましたが、その時に「情報が足りなくて十分なご説明ができませんでした」と言われました。これだけはっきり武藤副社長と吉田所長が認識を共有していて、常務も「最初からわかっていました」と認めているのに、「18日に説明する時に十分な情報がなかった」と言われても納得できません。本当のことを言うと出世できない組織になっているのではないでしょうか。ここを何とかしてほしいと思っています。

そして、マスコミも追求しないのです。立地県の知事に東京電力が嘘をついたことを謝罪に来たのに、質問は二問だけでした。経緯をわかっているのに聞いてはいけないようになっているのではないでしょうか。

原因を徹底的に追及する米国と問題にフタをする日本
人類に影響を与える科学技術に原子力と宇宙開発があります。米国ではチャレンジャーとコロンビア号の事故について徹底的に対応しています。チャレンジャーはオーリングが機能せず爆発しました。警告が出ていたのに飛ばしてしまったのはなぜなのかを追求し、大統領がコンセンサスを取りました。コロンビア号も事故が起こったのはなぜなのか徹底的な調査を行い、次にどうするかを決めています。

元東海村村長の村上さんは今、脱原発の先頭にいますが、「なぜか知っていますか」と聞かれました。普通の立地県の首長さんですからイデオロギーではありません。「世界で日本が誇る原子力グッズは何だと思いますか。バケツです。なぜ現場がバケツを使うことになったのか、なぜこういうことになったのかということを国家をあげて原因を究明して対策を取り始めると思ったのですが、JCOの事故後、フタをし始めました。問題点がなかったことにして進み始めたので、この国は原子力を使ってはいけないと思いました。だから私は今、脱原発なのです」と言われていました。

事故で明らかになった課題①:重要事項の意思決定
原子炉に海水を注入すると廃炉になるため、福島では原子炉に水を注入できない時間が生じました。意志決定は社長や会長ではなく、全て所長に任せるということになっていますが、一機5000億円をパーにする判断を一社員ができるのでしょうか。それをさせるのなら経営に打撃を与えない制度が必要です。海水注入の判断を所長に任せておいて、後で「そんな必要があったのか」と文句を言われると怖くてできません。5000億円を支払える保険制度が必要です。そういうものがないのに、本当に所長に任せると言えるのでしょうか。事故対応に関する重要事項の意思決定が的確に速やかに行われる体制を整備する必要があります。

事故で明らかになった課題②:過酷事故をだれが収めに行くのか
マネジメントにおいて、過酷事故を誰が収めに行くのかということも決まりがありません。福島の時、自衛隊機が放水し、セミのおしっこと言われましたが、「このまま放っておくと総理は米軍に救援を依頼する。そうすると米軍の指揮下で自衛隊がやらされる。そんなことになるくらいなら自らやります」というのが自衛隊が突入した理由です。

自衛隊、警察、消防は普通の公務員と違って命を懸ける宣誓をしています。身を挺して社会を守る使命を持っている人たちです。極限は自衛隊になるのかもしれませんが、指揮官としても送れません。警察が行くのか、消防が行くのか。自衛隊は国の機関ですが、消防は市町村、警察は県ですが指揮権は警察庁長官にあります。戦前の姿を一番表しているのは警察庁だと言われます。大臣が介入できないからです。国家公安委員長という大臣が上にいますが指示はできません。自治体消防は県知事が指揮権を持っているのは東京だけで、だから石原さんは行けと言えたのです。東京都は東京府と東京市の合併自治体だから市の権限を都知事が持っている唯一の例外で、それ以外の立地県の知事は要請はできますが指揮権を持ちません。

ヨーロッパではフクイチで働いている人は原発奴隷と言われています。ソ連では原発を収める業務に携わった人は英雄として尊敬されています。なのに、日本では働いていることを隠さなければいけない。制度と仕組みがおかしいからです。日本に放射線被害を広げないために身を挺して頑張っている人が隠さないといけない、家族に仕事をしていることを黙っておかなければいけないのは制度に矛盾があるからです。何段階もの下請けがあって、ひ孫請けまでは立派な企業ですが、その下にはいろんな企業があって、ホームレスが連れてこられてサイト内で労働している事例もあります。当初は1日あたり10万円が出ていたのに、現在、現場では8000~12000円しか受け取れず、さらに食費、交通費、宿泊代が引かれます。こんなことでいいのかというのがヨーロッパの見方です。制度がないからこんなことになっています。

事故で明らかになった課題③:テロ対策B.5.bが共有されていない
テロ対策B.5.bについても言っておきたいことがあります。911で4機目がピッツバーグに墜落しましたが、ホワイトハウスか原発をねらったのではないかと見られました。NRCは直ちに航空機テロで原発がねらわれたらどうするのかを検討し、万が一そのようなことが起こっても放射性物質を撒き散らかさないために義務付けたのがB.5.bという規定です。米国の航空母艦や原子力潜水艦は被弾することを前提にオペレーションをしていて、原子炉を抑えるチームが乗っています。米国の被弾を前提としたオペレーションをする姿勢はミッドウェー海戦にも見て取れます。

日本も官僚レベルはB.5.bを知っていました。原子力安全・保安院の一部、次長まで知っていましたが、課長は知りませんでした。そして、政治にも電力会社にも伝えられていませんでした。クリントン長官から官邸に部隊を送るという話がありましたが、日本はこの要請を断っています。もし受け入れていたら、ここまでの大事故にならなかったのではないかという検証がいります。B.5.bを政治にも電力会社にも伝えていないので、米国から電話をもらっても意味が分からず対応できませんでした。B.5.bを伝えなかったことにも影響があると思っています。なぜB.5.bを国全体で共有していないのか検証しないとまた同じことが起こります。

まずいと思ったことは言わないといけない
中越沖地震の時、テレビで火災が報道されているのに柏崎刈羽のサイトに電話がつながりませんでした。ホットラインがある部屋のドアが地震でゆがんで開かなかったからです。危機の時に電話がつながらないと話にならないから、「災害があった時こそ、必ずつながるようにしてください」と強く要望しました。東京電力はお金がかかる話が上がるとつぶされますが、最後は勝俣さんが政治判断をしてくれて免震重要棟ができました。同じ東電の施設で新潟にあって福島にないというのはまずいので、福島にも免震重要棟ができ、それが完成したのが津波の8カ月前です。あの時私がしつこく求めていなかったら新潟に免震重要棟はなかったし、福島にもありませんでした。第一、第二、東海原発へも広がった可能性もあるのです。まずいと思ったことは言わないといけないのです。

私が知事に就任するきっかけは、地元の市長から知事選に出る人がいないから立候補してほしいと言われたからです。結局、知事選には6人も出たのですが、7月に母校が水没し、災害復興だけはやってくれと言われたので水害復興も公約にしていました。その時に「歴史に恥じない判断をしよう」と言われました。その場しのぎは簡単です。しかし、必ず歴史の法廷に立たされる時が来るから、歴史に恥じない判断をしようと最後まで愚直にやっていました。

「知っているリスクを黙っているのはいけない」と思っています。だから今の制度の問題をずっと言い続けてきました。でも伝わらないのです。全国からたくさん報道各社が取材に来ますが、根本からやっていかないとおかしいと言っているのにマスコミに載らないのはなぜなのか。どこで話してもなぜか届かないのです。地元のマスコミは知っていても、なぜか全国発信になりません。エリアごとに分断されている状況になっていると実感しました。

〈質疑応答〉

Q:避難計画の実効性の審査はどうあるべきですか。

A:現在の避難計画は、5km圏はすぐに退避ですが、5~30km圏は原則屋内退避です。でも、4.9kmの人が家の前を逃げていくのにとどまれるか、29kmだからといって逃げないということがあるだろうかというと無理だと思っています。さらに5~30km圏で家が壊れているかもしれません。ガラスが割れていたり壁が落ちていれば屋内にこもっても意味がないかもしれません。

新潟で避難訓練を行った時に、44万人を避難させるのに、誰が被ばくをしながら助けにいくかということについて自衛隊に相談したら無理だと言われました。放射線防護をする病院や高齢者福祉施設は特殊なフィルターで中にこもれるようにしています。3階建ての建物の場合、2階にフィルターを設置しているので3階と1階の患者を2階に移動させますが、移動したから終わりではありません。助けはくるのか、食料はどうするのかが不安になります。「なぜこれで避難訓練がOKなのか」と新潟では強い心配が寄せられます。

防災計画がきちんと立てられない現状において、実効性がないのにだれが承認するのでしょうか。原子力規制委員会は設備の評価を基準にしますが、住民の心配を吸い上げる仕組みがありません。いざという時に放射能を浴びる可能性がある人の代表がいないのです。

避難は自治体の責任です。県議会で「東アジア情勢が緊張しているが、航空機テロがあるかもしれない。ミサイルが当たるかもしれない。サイトに当たったらどうなるのか」と質問されて、規制委員会に聞くと「所管ではありません」という返答でした。それは国民保護法の問題なので私は関知しませんということです。正確に言うと、原子力規制委員会ではそれ以上のことは扱わないということです。

現在の原子力規制委員会はアメリカのNRCと全く違います。NRCは海軍から人が来ます。いざという時に組織を運営する能力と専門知識があります。そして放射能を浴びる可能性のある人が入っています。だから魂が入ります。

日本は安全圏の東京にいて自分は放射能を浴びないことを前提に、あとは知らないという人たちが審査をしています。新潟は柏崎刈羽で何が起きたかを知っています。新潟には東電の協力会社があり、福島でも働いたことがあり、福島に親戚がいる人もいるので、我がこととして福島の事故に向き合っているし、いろいろなルートから情報も入ってきます。三条委員会に立地の現場の代表者を入れてくれとずっと言っていますが、一度も報道されませんでした。仕組みはいいけれども魂が入らない理由は、メンバー構成にあるのではないでしょうか。いざという時に放射能を浴びる人をどうして入れないのか、ここをやらないと問題があるところにふたをして進めていくことになります。人選は極めて重要なのに、この声も届かないのです。

Q:東電の経済的効果は固定資産税や雇用などどんなものですか。立地県として原発のメリットとデメリットをどう判断して政策を行ってきましたか。

A:マクロで答えるのか個々の事業者の立場で答えるのかによってとらえかたが変わります。マクロで言えば、実際の売り上げの集計などは新潟県のホームページにも載っています。でもマクロと個々の事業にとってどうなのかは違います。影響はゼロにはなりません。必ず影響が出る人がいます。検査や工事や宿など原発が止まっていると仕事は10分の1になります。協力会社は他の仕事もしているから3割減くらいだと思いますが、影響を受ける人は100パーセント自分のこととして影響を受ける事実があります。だから一番厳しい意見をマスコミは伝えます。マクロで回答すると「私たちを切り捨てるのか」となるので、首長としてそういう議論はできません。ものすごく数が多いものも、ものすごく数が少ないものも政治の責任と言われました。数が少なくても当たった人にとっては100パーセント自分のことで、まさに自分の生活に影響を受けます。新潟水俣病もそうです。一般的に、経済的にという議論をすると「こういう人がいるじゃないか」と反論が出て政治的に意味がないので、やっぱり影響があるという前提で議論をします。マクロで影響が少ないから切り捨てていいという議論にはなりません。

Q:原子力防災について県議会との関係はどうですか。

A:私が説明することに反論する人はいませんでした。今日の話を聞いていただければ、きちんとやらないとまずいと思いますよね。原子力防災に反対の人はいませんでした。

Q:知事選出馬は圧力でやめさせられたのですか。

A:伝わらないのです。確証はありませんが、事故当時のAC(公共広告機構)の社長は東電社長の清水さんで、東電も事故後、地元の新聞に広告をうちましたが独立系のマスコミが「いくら広告費をもらったのか」と質問しても一切答えないという事実がありました。

不遜な言い方ですが、選挙参謀に知事選は負けようがないのになぜ出ないのだと言われました。1週間前の調査で8割超えの支持があり、データ上では負けませんでした。でも、私が勝っても今のような情報は伝わらないのです。新潟県民の気持ちは政党は関係ありませんでした。産業界は原発推進というイメージがありますが、新潟で一番大きいのは食品加工産業です。自民でも泉田支持だという人がたくさんいます。国から見ると泉田がわがままを言っているとみられていますが、地元では泉田がどういう人かわかります。東京で「泉田はわがままだから首を変えたら?」となると、私が勝っても伝わらない。

私が引けば次の候補が出ます。勝つかどうかはわかりませんが、僅差になるのは確信していたので、むしろここで引いて新潟県民の意志が明らかになる方がいいと思ったから引きました。あのまま知事を続けていれば伝わらなかったメッセージだし、今日、この場に呼んでいただけたかどうかもわかりません。がんばれと相当言われましたが、私のところに伝わってきている新潟県民の意思や感覚を知ってほしかったのです。新潟県民は避難計画が機能しないことを知っています。中越沖を経験していますし、東電の協力会社として現場を知っている人がたくさんいます。県議も一部の一本盛られた人はいますが、それ以外は必ずしもそうでもない。その現実を知ってもらうために知事選から撤退することでメッセージは伝わったのでよかったと思っています。

Q:・・・といっても国やいろいろな圧力があるのではないですか。

A:圧力かどうかはわかりませんが、車でつけられたこともあります。不気味でしたし、東電を取材していたある記者に「これ以上取材したらドラム缶に入れて川に浮かべると言われたが、知事も気をつけて」と言われました。間接的にいろいろありますが、捕まるようなことはしないのです。電力会社が「こうしろ」とは直接指示しません。それを忖度して動く怖さはあるかもしれませんが。

Q:米山新知事のもと、新潟として今はどういう取り組みをしていますか。

A:なかなか話しにくいところはありますが、米山さんは元々推進派です。県議会でも答弁しているので説明すると、「推進派だったのがいつの間に慎重派に変わったのか」と聞かれて、そこは正直に「知事選に立候補する時に」と答えています。

<ここから先は「会場のみなさんを信じて話しますが」ということで話されましたので割愛します>

Q:本の出版で現実を訴える予定はありますか。

A:たくさんお話はいただいていますが忙しくて余裕がないというところです。『原発ホワイトアウト』でもありましたが、登場人物のように首を取れという乱暴なチームと現場と向き合ってきちんとやろうというチームがあって、通産省が丸ごとおかしい訳ではありません。現実を見据えて住民の生命、安全、健康のことを考えている人もいます。だからこそ、こういう本を書いてくれて救われたところがあります。

忘れかけているところがあるので、ようやく今後、勉強会でも立ち上げるかなという段階になりました。伝えないわけにはいかないのです。(原発事故は)100万年に1回と言われますが、実際は10数年に1回ずつ起こっています。過去の経験を現実の制度や政策に生かせなければ、責任が果たせません。動く、動かないにかかわらず原発はそこにあって、原発は止まっていてもリスクを抱えています。知った以上、どう責任を果たしていくかを考えないといけません。

Q:福島からの避難者のスクリーニングは任意とのことでしたが、兵庫は必須。尼崎の稲村市長は「強制していいの?」と言っていましたが、そのあたりを聞きたいです。

A:福島でもスクリーニングをしていたし、会社でも測ることができる人はいます。強制すると差別になる可能性があるので、希望者だけにしてくださいということは徹底しました。ただ、「結構です」という人はほぼいなかったと聞いています。心配な人は受けられますが、強制の必要は全くありません。

先に、福島のSOSに応じて職員に行ってもらったという話をしましたが、「新潟の機材を汚すのは申し訳ないのでやっぱりいいです」と言われました。こちらは決死の思いで送り出しているのに「結構です」といって測らせてくれないのです。「汚れてもいいからやってください」と言ったのに、最後は「お引き取りください」と言われ、測らせてもらえませんでした。帰ってきた職員の服を検査したら被ばくしていました。検証事項の中に誰が測定を拒否させたのかということも必要です。そのあと報道からも相当質問を受けて、飯館村は新潟が測ったのかと言われましたが違います。測定した人はSPEEDIを見てどこが濃いかわかって行っています。平米あたり数十万ベクレルのヨウ素が発見されているのに、飯館の避難は一カ月後でした。半減期を考えるとこの時にはヨウ素はもうありません。そういうことを表沙汰にしたくない人が世の中にいます。

なぜSPEEDIを使わないことになったのでしょうか。田中委員長はSPEEDIは使えないといいますが、使う側のニーズを聞かないで勝手に計算するから使えないのです。どうして使えなかったかというと、2時間後の拡散状況を1時間ごとにリセットしたからです。避難する時に欲しいのは、8時間後、12時間後、24時間後の拡散予想です。1時間ごとに更新してもいいですが、累積はわからなくてもいいから、今出た放射性物質がどういう風になっていくのかを避難のために知りたいのです。桜井市長が避難の時に参考にしたのはドイツの拡散予測でした。測れなくてもモニタリングポストは全県に展開していましたし、各県の結果からどう流れているのか全部わかります。東京に向かって流れているのも把握していましたし、桜井市長にも「明日来てくれたら北西の風で直接浴びません」と言えました。SPEEDIが使えないというのは1時間ごとに2時間後の拡散予測をリセットしたから避難に使えないだけであって、米軍もフランスもイギリスも使うことになっています。どうして日本だけ使えないようにしているのでしょうか。

もっとひどいのは、先に44万人にどうヨウ素剤を配るのかという話をしましたが、これを厚労省に聞くと「風で飛んでいきそうなところに先に配ればいい」というのです。「だからSPEEDIがいるでしょう」と言っているのです。SPEEDIを使わなかったために被ばくした人たちに対して責任問題がないのかということをきちんと検証しないといけません。そうでなければ先進国で拡散予測技術があるのになぜ日本だけ使わないのかということになります。

確かにマグニチュード9.2は予測できませんでしたが13メートルの津波が来る可能性は2年半前にわかっていました。その時の社内記録を裁判所から提出命令されているのに東電は拒否したままです。どうしてそれが通るのか。どうして報道はそこをつかないのか。ずっと謎がたまっています。国民を代表して記者会見をしている自負があるのなら「なぜ裁判所の提出命令を拒むのか」と聞いてほしいです。

Q:311後、福島からの避難者を受け入れる時にスクリーニングレベルを引き上げましたか。また、スクリーニングチェックで引っかかった事例は何件ありましたか。

A:数字は出たままを伝えました。OKとNGを分けた訳ではありません。被ばくしていれば除染作業をしました。スクリーニングポイントを作る時に現場が一番困るのは水です。除染した後の水がどこに流れるかが大事なので、スクリーニングポイントはどこにでも作れません。山の中で行えば田んぼに入るかもしれないから、スクリーニングポイントの設置をいやがられる現実があります。

運転手に(原発事故の際に)被ばくするかもしれないが現場に行けと言われたら行くかというアンケートをしました。3割が行ってもいいが特別手当が付くこと、いざという時に自分と家族をサポートする仕組みがあることが条件でした。日本は事故の時に改めて考えるというスタンスなので、行ってもらえるかどうかは疑問です。

福島から車で来られた方も結構います。濃い車があるとガソリンスタンドで洗車するだけで一般人が扱えないレベルの8000ベクレルを大幅に超える泥がたまった場所があって、今でも厳重保管しています。スクリーニングポイントを作るということは除染した後の水をどう扱うかに直結します。除染しなければいけない人はいなかったのではないかと思います。入る、入らないの判断とは関係ないスクリーニングでした。

Q:311で福島に行った職員のその後について教えてください。

A:服で被ばくがわかって丁寧に対処し、その後も健康に影響はありません。今も第一線で活躍しています。数はたくさん行っているし、今でも行っています。

Q:行政は再稼働についてどこまで影響を与えることができますか。特に県知事がどこまでできるのですか。

A:再稼働の議論は何のためにしているのかもう一度考えないといけません。なぜなら、再稼働をしていなくてもリスクはあるからです。再稼働議論をした瞬間に賛成か反対かというイデオロギー闘争に入っていきます。今日、私が話したことは再稼働していてもしていなくてもやらなくてはいけないことで、再稼働議論をするとここが省略されてしまいます。


※講演資料p24より抜粋

日本の原子力防災は世界最高水準ではありません。IAEAの深層防護の基準において、第3層までは原子炉等規制法に基づいて規制委員会がいろいろ行っています。しかし、第4層の事故後の対応では誰が行くかも決まっていません。米国では行く人のリストがあってサインもしています。放射線防護方法もリスクも知っていて、実際に行くときに改めてサインして行きます。特別手当も出ます。日本は誰が行くということがなぜ決まっていないのでしょうか。

IAEAの深層防護において第4層は事故が起きた時にどう対応するか、第5層は原子力の外に影響が及ぶときどうするのか、ということです。これが国際基準です。IAEAの深層防護の第4層が極めて不十分、第5層は全くやっていないので、世界最高水準の基準になっていません。規制委員会の基準をクリアしたところで責任の所在が不明確です。誰もやっていない。先進国の最低ラインに届いていないのです。社会全体でどうすべきかを考えて妥当な結論を出すべきです。だから再稼働はこの段階で議論することではありません。これをやった瞬間に自分たちの身に降りかかるところが飛んでしまって社会のコンセンサスを作ることもできません。

ウラン235とウラン238の違いについて話しますと、今の原発はウラン235でないと動かないのですが、ウラン235の埋蔵量は石油より少ないのです。この議論はしてはいけないことになっているらしく、某全国ネットで取材を受けて話をしましたが、きれいにカットされました。

ウラン235は残りが2割になると価格は青天井になると言われています。最近、原発は経済的だという話がなくなったでしょう。原発は高いか安いかという議論もなくなりました。今度の国会で8兆円の国民負担を求めるとなりましたが、原発が事故対策も含めて安いのなら、「安い原発を動かさないので国民負担になるんですよ」という話になればつじつまがあいます。事故対策を含めて原発が安いのなら、原発を動かさないから国民負担が生じるというのなら「なるほど」となります。なのに、原発を動かすけど国民負担が生じるということは原発は高いのではないでしょうか。この辺りを説明してもらわないとわからないと言ったら、高いか安いかの議論は消えました。きちんと議論してコンセンサスを作っていくプロセスが飛んでしまうから、自分のこととして考えるために私は再稼働議論はすべきではないと思っています。

ちなみに原子力安全協定は紳士協定なので法的効果はないと言われますが、公害防止協定というのがあります。最高裁で法的拘束力をもつという判例が出ています。原子力安全協定については最高裁まで争った事例がありません。でも公害防止協定は判例があることを知っておくといいです。

Q:子孫に国を残すために国民は今、何をすべきだと思いますか。

A:知事選からの撤退宣言から報道されたのは1チームだけですが、実際は署名活動が5チームあって、報道よりも署名数は多かったです。「泉田さんを一人にしてしまったのではないか」「任せておけば大丈夫と思っていて行動しなかった。すみませんでした」と言われました。知事選撤退表明後だったので申し訳ない気持ちでしたが、社会全体で自分のこととして考えてみることが大事だと思いました。

東京では泉田はわがままというふうに見えていたのでしょう。でも、知事になってわかったのは、選挙は住民のみなさんと直接つながりをもつ機会だということです。通産省は一番それと遠いです。通産省のカウンターパートは経営者です。労働省はまだ現場に近くて同じくらいの年齢の人と話をすることもありますが、白髪頭を入省一年目に向かって下げられたりすると錯覚して勘違いする人が出てくると思います。逆に通産省の中で住民と向き合わないといけないと思う人は福島に行っています。住民の言葉を生で聞くと自分のこととして考えます。きちんとやらなければという人たちもいます。選挙をすると生の言葉を聞く機会がたくさんありました。生の声を伝えてくれる人の気持ちがわかるので代弁して伝えていたら「泉田が勝手なことを言っている」と言われました。新潟県民がどう感じているのかがもっと早い段階で伝わっていればと思います。

佐藤さんとの対談の時にこんな質問がありました。「なぜゼロ円収賄で知事は逮捕されたのか。私たちには何ができたのですか」。佐藤さんと私は現職時代が少しかぶっていて、新潟、福島、山形は上杉が治めた土地ということで三県で知事会をしているのですが、最初に出席した時のホストが佐藤さんでした。今、考えると「兄弟を使ってそんなことを」くらいにしか思っていませんでした。まさかゼロ円収賄で国策捜査で逮捕されて判例が残ったとは。「私たちはなにができるでしょうか」と質問がありましたが、関心を持ってみるということ、そして報道だけではないということです。今はSNSなど直接伝えることができます。ITリテラシーを磨くことが一番ありがたいことだと思います。

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