先日、大月純子さんのお話を聞く機会があったのですが、アイスブレイキングとして話されたことが驚きでした。
要は
オイルは遮光して冷暗所に保存してください
ということなのですが、なぜか、という話です。
不妊治療において胚培養をする時、ミネラルオイルでカバーします。
ところが、以前、メーカー保証オイルを使っているのに全胚が死滅してしまう事例が日本を含む各国で起こり、原因がわかっていませんでした。
大月さんが分析したところ、胚発生に問題がないミネラルオイルの過酸化物価(POV)値は0.00meq/kgであるのに対し、胚が死滅したオイルのPOV値は2.97meq/kgと高く、肺が死滅した原因はミネラルオイルの過酸化であることがわかりました。
実験で、日光とUVライトに曝したミネラルオイルのPOV値は経時的に著しく上昇しました。UVだと120時間くらい、日光に当たると7週間で死滅してしまったオイルと同じ3くらいにPOV値が上がったということで、オイルが過酸化したのは日光に当たったのが原因だと思われると言われていました。
マウスの胚を用いた実験において、POV値が3までいかなくても0.1meq/kgを境に胚盤胞発生率が顕著に低下し、0.5くらいで全胚死滅してしまうので、オイルが過酸化されていないことはとても重要だと話されていました。
「…なんですけど、」
と大月さんは続けて食品のPOV基準について話されたのですが、こっちの方が私には衝撃的でした。
食品のPOV基準において、0.1なんていうのはものすごく低い値で、10未満で「ほとんど酸化していない」と定義されているのです。
大月さんは「ということは、私たちの体の中に抗酸化能があって10未満くらいだったら自分たちがなんとかしているのだと思うんです」と言われていましたが、
ほんまにその基準で大丈夫なんかΣ( ̄ロ ̄lll)??
とあまりの数値の差に驚きました。
ちなみに、2回使用した油のPOV値は13.3だったとのことで、油は1回使ったら捨てた方がいいようです。
また、M家の油のPOVは14.0、T家の油は0.8だったそうです。「T家は油を引き戸の中で保存していたので遮光になっていたので低い値を保ち続けたと思う」とのことでした。これを聞いて、ウチはもともと油を戸棚に置いていましたが、さらに奥に移動させました。
油を光に当てないということは本当にポイントらしく、わざと数週間日光に当てた油のPOV値は25.9だったそうです。
メーカーが「極めて酸化しにくい」とうたうスクワランもずっと窓側に置いておいたものは95.2。だから、化粧品も気をつけた方がいいのではないかとのことでした。
油で揚げてあるお菓子やインスタントラーメンも、古いものは活性酸素が影響するので注意が必要とのことでした。
それにしても、食品として10未満なら「ほとんど酸化していない」と定義されるPOV値ですが、生殖においては0.1でも胚盤胞率が落ち、0.5で全胚が死滅してしまうなんて、桁が全然違うことに驚きます。
POVがそうだから放射性物質もそうだと乱暴な決めつけをするつもりはありませんが、子どもが口にする食品はせめて1ベクレル以下を推奨する意見が多くあるのにそれらは全無視され、福島第一原発事故の前までは100ベクレル以下でも厳重に管理されていたのに、今ではまさかの「食べても安全」なものになっていることに、POVと桁的に同じなのでとってもひっかかるものがあります。
大月さんの論文が発表されて以降、全国でオイルによる全胚死滅はなくなったとのことです。
放射性物質も健康被害を避けるための知見を積み重ねることができるはずです。
データも結論も報道もあまりにいろいろなことが操作されすぎて訳がわからなくなって「大丈夫、大丈夫」になっていることに不安を感じている時に、「こういうことを調べて、こういう結果になったので、これが原因だと思います。その原因を除去したら問題が解決しました」とこんなにクリアーに示されると、科学ってスゴい!と素直に思います。
これがほんまの科学ちゃうんか
と私は言いたい。
<参照>
■大月純子、体外受精・胚培養に用いるミネラルオイルの精度管理、J.Mamm.Ova Res. Vol.24, 175-176, 2007