2017年6月24日、スペシャル番組放送分の新喜劇でこんな場面がありました。
小籔:「そのころ一方」
A:「そのころ一方、アメリカ合衆国ではトランプ大統領が豪腕を振るい」
小籔:「豪腕を振るい、それと同時に」
B:「世界中ではイスラム国によるテロが起こっていて」
小籔:「テロが起こっていて、だから我々は」
C:「我々は2020年の東京オリンピックのテロ対策を小池都知事を中心に強化していくべきであり、我々関西の人たちは他人事とは思わず真剣に考えていかなければならない」
で、拍手が起こります。
「いったい何の話だ!何だテロ対策って!」
と小籔が茶化しますが、瞬間、先に読んだ『たのしいプロパガンダ』を思い出しました。
新喜劇はこれまでも宝くじや地方自治体とのタイアップをしていますが、これはちょっとうさんくさすぎます。
『たのしいプロパガンダ』には2つの目的があります。
ひとつは、知られざる「楽しいプロパガンダ」の歴史を明らかにすること。
もうひとつは、現代日本における「楽しいプロパガンダ」の可能性を探ることです。
著者の辻田真佐憲さんは「楽しいプロパガンダ」にこそプロパガンダの本質があると考えています。映画『NO』の主人公もそう言っていました。今、兵庫県知事選で勝谷候補がやたら「楽しい兵庫」をアピールしていますが、樫野さんあたりがブレーンになっているのでしょうか、ものすごくこのあたりを意識しているように思います。
話がそれましたが、辻田さんは「娯楽を通じて知らず知らずの内に浸透してくるプロパガンダこそ警戒すべき存在なのである」と言います。
銃で脅しながら宣伝しても、民衆を心の底から服従させることなどできはしない。だが、質の高いエンタメ作品に政治的なメッセージを紛れ込ませ、ソフトに宣伝したとしたらどうだろう。民衆はそのエンタメを楽しんでいるうちに、抵抗することすらできず、知らず知らずの内に影響され、特定の方向へと誘導されてしまうかもしれない。
つまり、「楽しいプロパガンダ」こそもっとも効果的なプロパガンダ手法のひとつなのである。(p4)
だから、辻田さんは「日本が今戦争に突入すれば、アイドルが軍歌を歌うだろう」と推測しています。
そして、必ずしも政府が命令して楽しいプロパガンダが作られるわけではないということを指摘しています。
そのような優れたプロパガンダは、政府や軍部の一方的な押しつけではなかった。むしろ、民衆の思考を知り尽したエンタメ産業が、政府や軍部の意向を忖度しながら、営利のために作り上げていった。こうすれば、政府や軍部は仕事を効率化できるし、企業は儲かるし、民衆も楽しむことができる。戦時下に山のようにプロパガンダが生まれた背景には、このような構造があった。(p58)
忖度Σ( ̄ロ ̄lll)
またこの言葉か!
この言葉が出てくるとほんまにろくなことがありません。
今回のセリフは誰かを忖度して座長が自ら行ったのか、えらいさんからそういう内容を入れろと指示されたのかはわかりませんが、違和感がありました。
なんか、これを聞いたとたん、現実に引き戻されてシーーーーーーンと冷めるみたいな。私はそう感じました。
おそらくセリフを話している3人は、自分たちが言っていることの裏の意図を理解していないと思います。でも、毎日何回も舞台で大きな声で言い続けていたら、知らない間にそういう考え方になってしまうと思います。とっても心配しています。
今回笑いに紛れて伝えたかった裏のメッセージは
「我々は2020年の東京オリンピックのテロ対策を小池都知事を中心に強化していくべきであり、我々関西の人たちは他人事とは思わず真剣に考えていかなければならない」
だと思います。
テロ対策という名目で共謀罪があり得ない方法で成立したことを正当化するためになりふり構っていられない安倍さんに忖度しているのでしょうか。
小池都知事の任期は2020年7月30日で、オリンピックは7月24日から8月9日開催だから小池さんが都知事でいるかどうかは定かではないのに、わざわざ小池さんの名前を出すところに何か含むものがあるのでしょうか。
もう何がなんだかわかりません。
吉本は「楽しいプロパガンダ」を行うのにとっても有効だから、試行錯誤中なのかもしれませんが、これじゃ笑えない。
その後なんかずっとヤな感じしか残りません。おもろない。
新喜劇くらい何も考えずにハハハと笑って見たいねんけどなあと私は言いたい。
<参照>
辻田真佐憲、『たのしいプロパガンダ』、イースト・プレス