【BOOK】『「その日暮らし」の人類学』 先が見えない今、生活していくために

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図書館で借りる本がなくて、手ぶらで帰るのもなんだかなと思っていた時に、たまたま見た棚に小川さやかさんの『都市を生きぬくための狡知』があり、なんとなく一緒に帰ったらめちゃおもしろい一冊でした。

今の人文系でキレてる人をあげるなら、小川さんは絶対にその一人だと思います。『都市を生きぬくための狡知』は返却してしまって手元にないので別の一冊『「その日暮らし」の人類学』から書きます。

引用したいところは多々ありますが、まえがきからつかまれます。

明日どうなるかわからないといったゾワゾワを封じるために、社会全体で今の延長線上に未来を計画的・合理的に配置し、未来のために現在を生きることがまるで義務であるかのように生きている。安心・安全が予想可能性と強く結びつき、よりわかりやすい未来を築こうと精度やシステムを高度化し、将来のために身を粉にして働く。これに反する生き方は基本的に、社会不適合で「ダメな」生き方だと考えられている。主流派社会では、操作可能性は人間を測る、評価するうえで重要な指標である。扱いづらい人間とは、操作困難な「使えない」人びとである。計画性、予測可能性を基盤とする社会にとって操作可能な人間とは、予測しやすい優秀なパーツである。(p8)

しかし、制度やシステム、言説に綻びが出はじめ、不安定が見え隠れする今、人々は「強烈な不安を抱え」ます。その不安を隠すために日本中にあふれたのが「絆という文字」だと続きます。

今の日本は「私(社会)を不安にしないためにおまえはこうしろ」という社会ですが、実はそれの方が珍しくて、今日を生きるという生き方は個人や社会を不安に陥れるものではなく、特有の豊かさをもたらしていると語るのが本書です。

なぜなら、今日を生きるという生き方は

それは、職を転々として得た経験(知)と困難な状況を生き抜いてきたという誇り、自分はどこでもどんな状況でもきっと生き抜くすべを見いだせるという自負であり、また偶発的な出会いを契機に、何度も日常を生きなおす術であった。(p217)

からです。

私的に一番印象深かったのはここです。

文化的な多様性が極めて高く、極めて不確定なビジネス環境においては、取引相手の道徳性、あるいは相手が誠実たろうとする意思はあまり取引の帰結に関係がない。約束を守ろうとする人が信頼できる人ではなく、騙しを含む実践知によりそれぞれの局面をうまく切り抜け、結果としてその時に約束を守れた人が信頼できる人なのだから。つまり、信頼は取引をする前に存在する何かではなく、交渉の過程で互いに機微を捉え利害を調整し、お互いに「信頼」を勝ち取ることができた結果として生まれるものなのだ。(p120)

約束を守ろうとする人が信頼できる人ではないΣ( ̄□ ̄ ||

相手は約束を守るかどうかではなくて、ピンチの時にその人がどうするかを見ていて、それで信頼できるかどうかを判断すると。

この文章を裏から読めば、これまでの日本の社会は文化的な多様性がほぼなく、極めて安定した環境にあったということです。

なんだかんだいって日本の社会はまだ安定しているので、約束を果たそうと思えばかなりの確率で果たすことができ、相手にもそれを求めます。しかし、これまで日本で当然とされてきたこの考え方は日本以外ではほぼ通用しないし、これからは日本も多かれ少なかれそうなっていくだろうと思います。

なぜなら、今、政府が中流層をメッタメタに破壊し続けているので、そう遠くない将来、日本人同士でもわかりあえない文化の壁ができていくからです。もうきれいごとちゃうねんとなった時に小川さんの研究はものすごく参考になると思います。

ある古着商人はこう言います。

「路上商人は、警官を見たら自分の荷物をつかんで個々バラバラな方向に逃げる。足の遅いやつにかまっていたら、みんなが捕まる。逃げ切った商人が多ければ、捕まった商人を後から助け出すこともできる。同じように儲からない商売をみんなでやって何になる?みんなが食えなくなるだけだ。零細商売はあっという間に儲からなくなる。みんなで動こうとすれば、機会を逃す。誰かが動けば、道ができる。バラバラに動けば、誰かは成功する。誰かが成功して団子状態から一抜けすれば、その分だけ誰かの余地が生まれる。動けるのに動かない人間は、ほかのみんなの余地を奪う」(p95)

誰かが動けば、道ができるんです。
行ってみてあかんかったら別の道を行ったらいいんです。

一カ所に居つくのではなく、半歩でも、気持ちだけでもいろいろな足場を持ち、そこから四方八方に歩き続けることが大切だと思います。

私も獣道を100本くらい作ってみようと思います*´∀`)ノ

<参照>
■小川さやか、「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済、光文社

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